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江戸幕末期の粋「備前角徳利」

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絵備前角徳利 木村清右衛門(芦景)作 史上5本目の大珍品

絵備前 詩歌 松彫 角徳利

窯印:輪違い文 彫銘:芦景

かの古備前焼研究の第一人者、桂又三郎氏をして『まだ4本しか見つかっていない』と言わせしめた「史上5本目の絵備前角徳利」です。


伝承では、絵備前の角徳利を始めて焼いたのは文化文政期のことで、木村清右衛門という名の窯元が開発した、と伝わっています。

ちなみに、木村清右衛門は、同じ備前焼の窯元木村平八郎泰武の俳句の弟子で、俳号は「芦景」と言いました。


そして、この絵備前角徳利にも「芦景」の彫銘が彫られています。

つまり、この角徳利は、絵備前の角徳利を始めて作った、木村清右衛門の作品と判断できるのです。


これぞまさに、伝説級と言える幻の絵備前角徳利の逸品、史上5本目の奇跡なのです。

詩歌 松竹彫 六角徳利

窯印:丸に大 彫銘:友石

六角型の徳利で、表面に松が、裏面に竹が彫られている雅な作品です。高さは約28㎝程度で、約一升サイズです。

現代の酒席で徳利として使うには、ややが大きすぎるかもしれませんが、大人数をもてなす際は、ぜひおススメしたい逸品です。

現代にも通ずるモダンなフォルムや彫刻は、床の間の花入や、一輪挿しとして使っても様になるでしょう。

この作品には、「友石」と彫銘が彫られています。木村平八郎泰武の俳句の弟子で、備前焼窯元「田中友石金蔵」作と考えられます。

備前六角徳利 友石彫 松竹文様 古備前角徳利
IMG_0754 - コピー.JPG

青備前 詩歌 松彫 角徳利

窯印:輪違い文 彫銘:友石

青色に焼き上がった作品は、「青備前」と呼ばれます。


この景色は、胎土の鉄分が還元作用によって青色に発色する現象で、焼成時に、匣鉢や他作品の「入れ子」となり、酸素があたらない場所で焼かれた作品だけに現れる、大変珍しいものです。

この作品の彫刻は、松と俳句が彫られており、脇に友石の銘が残されています。これらから、「田中友石金蔵」による彫りの品と判断できます。

角徳利が面白いのは、徳利の高台(底面)に押印された「窯印(作者や注文主を見分けるための印)」と、彫刻を施した「陶工」がバラバラであることです。これは、角徳利を成形する者と、彫刻や装飾を施す者とが違っていたことを示しています。つまり、角徳利は、複数の窯元や陶工によるコラボレーション作品なのです。

青備前角徳利 佐藤陶崖 田中友石金蔵 松彫文様 古陶磁鑑定美術館「古備前焼の年代鑑定」

青備前 詩歌 松彫 角徳利

窯印:佐藤陶崖 彫銘:友石

この角徳利は、青と黄褐色の焼け肌が、斑模様のように混じった景色になっています。


作者は、備前焼窯元で医師でもあった佐藤陶崖です。

彫刻は、田中友石金蔵が彫銘を記しています。

詩歌は、前項の作品と同じ歌が彫られていますので、友石が松絵の徳利に彫る定番の句だったのかもしれません。

ちなみに佐藤陶崖は、1843年・天保14年に57歳で没していますので、それまでに作られた作品と判断できます。


また、焼けの甘さや胴板の薄さなどから、天保期以降に作られた「天保窯」の作ではないかと推測されます。

竹彫 角徳利

窯印:分銅印(金重系) 彫銘:なし

備前角徳利は、外見上は全て同じ姿形に見えますが、それぞれを詳しく見てみますと、窯元や陶工によって、造形や彫刻に「くせ」や「特徴」が見られます。

この角徳利には、分銅印の窯印が高台に押印されていますが、これは室町時代から続く窯元六性の一つ、「金重」系統の窯元に見られる印影です。

金重系の作品は、他の窯元の角徳利と比べて胎土が厚く、しっかりとした造りになっていて、土も一段と固く焼き締まっている傾向があります。彫刻は、草木文様の彫りが多く見られます。

独特な焼け肌が特徴的ですので、慣れてくれば高台の窯印を見なくても見分けられるようになるでしょう。

備前角徳利 金重分銅印 竹彫り 古陶磁鑑定美術館 古備前焼の年代鑑定
古備前 角徳利 江戸末期 幕末期 古陶磁鑑定美術館

竹彫 角徳利

窯印:輪違い文 彫銘:芦景

二つの丸が中央で重なった「輪違い文」の窯印は、備前角徳利でよく見られる窯印の一つです。

この陶工に関して詳しい情報は残っていませんが、輪違い文の窯印のある作品は、青備前や絵備前、そして彫銘の彫られた作や、共箱付きの作など、どれも上手物風で手の込んだ造りになっているのが特徴です。

そのため、特注品か別注品だったのかもしれません。

この作品には、俳号芦景こと、窯元木村清右衛門が彫銘を入れています。


芦景の彫る竹は、節と葉の部分が特徴的で、力強い彫りが魅力です。

共箱付き角徳利 古備前焼 窯印 江戸末期 幕末期 古陶磁鑑定美術館 古備前焼の年代鑑定

竹彫 角徳利 共蓋・共箱付き

窯印:輪違い文 彫銘:なし

角徳利の伝来品は数多くありますが、共箱付きの角徳利は、ほどんど数がありません。


そんな中でこの角徳利は、共蓋までほぼ完全な形で残っているため、歴史的意味でも貴重な逸品です。

彫刻の文様は、他の量産品と比べて精密で丁寧な仕上げがされており、優雅で美しい景色となっています。彫銘はないものの、相当な腕の作者が彫りつけたものと想定されます。

このような丁寧な仕上げは、贈答品として誂えられたからでしょうか。


こんな粋な贈り物が、幕末の日本では行われていたのです。

今見直される機能性と美術的価値

現代だからこそ、角徳利が流行する

備前焼と言えば、古くは中世時代から壺、甕、擂鉢などの生活容器で全国的なシェアを誇った、日本を代表する焼き締め陶です。

しかし、江戸時代の備前焼は、有田焼や伊万里焼などの華やかな釉薬を使った磁器にシェアを奪われ、厳しい状況が続いていました。


そんな中で、備前焼の良さである機能美を殺さずに、かつ斬新なデザインで、雅な磁器と渡り合える技術として開発したのが、塗り土の「伊部手」であり、「角徳利」「細工物」「上手物」などの作品群なのです。


それらを、王道から外れた傍流の一技巧と見ることもできますが、備前焼が現代までその火を絶やさずに残ってこれた確かな技術であり、また、当時の陶工達の情熱に他なりません。


その価値が見直される日は、きっと近く訪れることでしょう。


なぜなら、私たちはすでに、この作品の美しさや優雅さに気づいてしまっているのだから。

古備前 角徳利 保命酒徳利 備前焼角徳利 古陶磁鑑定美術館 古備前焼の年代鑑定
共箱と箱書き 古備前角徳利 古陶磁鑑定美術館 古備前焼の年代鑑定

共箱と箱書き

​江戸時代から続く日本の伝承文化

『箱書き』は、江戸初期に本阿弥光悦や小堀遠州らによって始められたと言われています。

箱の素材は、江戸時代の中期頃までは、杉や松が使われていましたが、やがて檜が主流を占めるようになりました。

この箱の底には、丸に完の焼き印と、墨書きが施されています。また、箱の蓋の裏にも、丸に完の焼き印が押されています。


「検品合格品」を表す印と考えられるでしょう。

品物だけでなく、共箱や箱書きが残されていると、当時の伝来や伝承が伺えるので、古美術の面白みがぐっと深まり広がっていくのです。

俳句 詩歌 松竹梅彫 角徳利 江戸末期 幕末期 古陶磁鑑定美術館 備前角徳利

詩歌 松竹梅彫 角徳利

窯印:丸に大 彫銘:作者銘有り(不明)

この角徳利には、三面に松竹梅の絵が彫られ、それぞれに詩歌や彫銘が入れられています。


作者の俳号か銘と思しき表記が見られますが、人物の特定までは至っていません。

しかし、これほど瀟洒で風流な作品を残せる腕前の持ち主ですから、只物ではなかったことは明白でしょう。

角徳利に彫刻や詩歌を残しているのは、備前焼の陶工だけでなく、文人や歌人や画家など、実に幅広い文化人に愛されたことが伺えます。有名なのは、儒学者で書家の篠崎小竹や画家の小橋陶復です。

​角徳利からは、幕末を生きた彼らの息吹が聞こえて来るのです。

幾何学文様彫 角徳利

窯印:丸印 彫銘:なし

四面に幾何学文様がびっしり彫刻されたこの角徳利は、主に幕末期から明治期にかけて作られました。

当時は、倒幕、開国に向けて、外へ向かう機運が高まっていた時代です。

そんな時代を象徴するかのような、異国情緒すら感じられる逸品です。

現代にも通ずるそのモダンなセンスがあったからこそ、動乱の中で欧米列強と互角に渡り合い、明治という新時代を作り上げたのではないでしょうか?

そんな浪漫に黄昏られる逸品です。

幾何学文様角徳利 江戸末期から明治時代 保命酒徳利 備前角徳利 古陶磁鑑定美術館
佐藤陶崖 窯印 角徳利 伊部、医師、画家、佐藤陶崖作角徳利 古陶磁鑑定美術館

竹彫 角徳利

窯印:佐藤陶崖 彫銘:なし

備前焼窯元で、医師、画家でもあった「佐藤陶崖」の窯印が入った角徳利です。

佐藤陶崖は、1787年天明7年に生まれ、天保14年の1843年に没していますので、これはその間の作品になります。

角徳利は、江戸時代後期から明治時代まで、約100年ほど作られました。そのため、この角徳利は、その歴史の中でも早期の作品と考えられます。

また、角徳利に竹や松の彫刻を始めて施したのは、佐藤陶崖や、その絵の師であった小橋陶復と言われています。


もしそうだとすれば、この作品は創世記の逸品と言えるでしょう。

備前傘徳利 保命酒徳利 古備前傘徳利 古陶磁美術館 古備前焼の年代鑑定

松彫 六角 傘徳利(撫肩徳利)

窯印:四角に大 彫銘:なし

口先に向かうほど肩が細くなるタイプの徳利は、「傘徳利」と呼ばれています。

スマートで上品なその姿形が、まるで「傘」を連想させることから、そう呼ばれるのでしょう。

「備前​傘徳利」は、通常の角徳利よりも数が少ない上に、上手の優作が多く見られることから、高級品だったと考えられます。

この優美な徳利には、どんなお酒が合うでしょうか。


日本酒が合うのは間違いありませんが、備前焼は当時から、「酒の味が美味くなる」とお墨付きでしたから、江戸時代では味わえなかった、ワインや焼酎を嗜むのも「現代の粋」でしょう。

御神酒徳利(角徳利)

窯印:丸にサ 彫銘:なし

手のひらサイズの小さい角徳利で、「御神酒」の文字が彫られています。神棚の御神酒徳利として作られたものでしょう。

この小さなサイズの角徳利は、他にも「金毘羅大権現」や、「天照大御神」などの文字が彫られた伝来品も多く残っています。

江戸時代は、お伊勢参りや金毘羅参りが全国的に流行していました。その際のお土産品として、最適な大きさ、内容ですから、当時人気を博したことでしょう。

この御神酒徳利には、高台(底部)に丸にサの窯印が押印されています。このサイズの各徳利に窯印が押されているのは珍しいため、貴重な作と言えます。

佐藤陶亭 角徳利 御神酒徳利 古陶磁鑑定美術館 古備前焼の年代鑑定
六角詩歌松彫徳利 備前六角徳利 古備前六角徳利 古陶磁鑑定美術館 古備前焼の年代鑑定

詩歌 松彫 六角徳利

窯印:丸に大 彫銘:友石

やや背が低い六角徳利で、卓上の一輪挿しや、お預け徳利としても最適なサイズです。

松と、松を詠んだ詩歌の彫刻文様が美しく調和し、雅な雰囲気を醸し出しています。

田中友石金蔵は、角徳利に多くの彫銘を残していますが、比較的大型の徳利が多いため、小型の伝来品は珍しいと言えます。

尚且つ、かさばらない大きさで、モダンな作ですので、現代風のインテリアにもぴったりと合う、大変お洒落な逸品でしょう。

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