「江戸幕末期の備前焼窯元と陶工 窯印」
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木村平八郎泰武彫 六角徳利
窯印:輪違い文 彫銘:陽花堂欣之
木村平八郎泰武は、江戸後期から末期にかけての備前焼窯元です。
窯元としての実績だけでなく、学問や俳諧にも通じており、角徳利に多くの彫刻や詩歌を残しています。
彫刻に記した俳号は、「陽花堂欣之」「雅ト」「垂桜舎」「雅ト山人」「欣之」などで、窯印は、四角が四つ正方形に並んだ形の押印を使用しています。
また泰武は、1849年嘉永2年に書かれた、備前焼の書物「古伊部神伝録」の返答者としても有名です。
彫銘、及び詩歌を見る
師弟関係で結ばれた当時の窯元、陶工たち
詩歌や風景が彫り込まれた胴部には、「彫銘」が刻まれていることがあります。
これは、角徳利に彫刻を施した作者が、自分の名前を残したもので、優品や秀作に多く見られます。
この作品には、木村平八郎泰武の雅名(俳号・雅号)である「陽花堂欣之」と銘が彫られています。
木村平八郎泰武は、江戸末期の伊部地区の俳句の師範代でした。
彼の弟子には、芦景の雅名を持つ木村清右衛門や、田中友石金蔵がいます。
彼らの伝世品が多く残っているのは、師弟関係で集まって、時には腕前を競いながら、角徳利に彫刻を入れていたからでしょう。
「窯印」を見る
「輪違い文」の窯印が示す名品の条件とは
六角形に成型された高台(底部)には、丸印が二つ重なった、いわゆる「輪違い文」の窯印が押印されています。
この窯印は、角徳利の優品に多く残されている印影です。
むしろ、角徳利の名品には、この印が押されていると言っても過言ではない程です。
そのため、角徳利を専門で焼いていた陶工の印か、もしくは、保命酒の発注元が指示した合格印ではないかと考えられています。
青備前 竹彫 角徳利
窯印:輪違い文 彫銘:芦景
その涼しげな蒼い焼け肌は、これが備前焼であることを忘れてしまうほど、洗練されたフォルムをしています。
すらりと伸びた竹を彫ったこの作品には、「芦景」つまり、木村清右衛門の彫銘が刻まれています。
木村清右衛門も、俳句の師匠である木村平八郎泰武と同じ備前焼窯元の一人で、多くの伝世品が残っています。
彼の作品の特徴は、時代を先取りした、新しい取り組みが次々となされている点です。
この青備前もその取り組みの一つです。
角徳利に絵付けを施して、絵付窯で二度焼をした絵備前角徳利を始めて焼いたのも、木村清右衛門と伝わっています。
この時代の先端をいくセンスこそが、角徳利の名彫刻を生んだ言動力ではないでしょうか。
芦景こと、窯元 木村清右衛門
青備前、絵備前、時代の先駆的存在
角徳利をいくつか見ていくと、必ず胴部に「芦景」と彫られた作品に出合うことでしょう。
芦景は、先述の通り、窯元木村清右衛門の俳号とされています。この木村清右衛門という人物こそ、備前角徳利の進化を支えた重要人物でしょう。
なぜなら、角徳利の逸品や優品の多くには、必ずと言って良いほど、「芦景」の彫銘が見られるからです。
もしかしたら、当時トップレベルの彫刻師だったのかもしれません。
青備前は、緋襷部分が「銀」に輝く
幻の銀青 角徳利 銘「銀閣」
青備前の焼け肌は、濃い蒼色や薄い空色や葡萄のような色など、様々な発色が見られます。
この角徳利には、その中でも珍しい、「銀青」と言われる、銀色の発色が現れています。この銀色は、焼成時に巻かれた藁の部分が発色することで出現しますが、通常の焼けでは、緋襷になる景色です。
この貴重な青備前角徳利には、「銀角」の銘が付されています。
田中金蔵友石彫 硯屏型 角筆立
窯印:四角に大 彫銘:友石刀・判印
田中金蔵友石は、江戸末期から明治時代にかけて活躍した備前焼陶工です。
角徳利に、「友石」「友石刻」「友石山人」「東備友石山人」などの銘が入っているものは、友石が彫刻した作品です。
友石は、没年の1888年明治21年頃まで、角徳利に彫刻していたため、最も多く伝世品が残っている陶工です。
製作期間が長かったため、彫刻の腕前は非常に洗練されており、写実的で美しい出来栄えです。
また、漢詩や詩歌を彫りつけた作品も多く残っています。その学識の高さには、脱帽してしまいます。
緋襷を見れば、陶工の腕前が分かる
「銘」があるのは、自信作の証拠
この硯屛型の筆立には、窯元の窯印と彫師の彫銘が、刻印されています。
角徳利に、複数の銘や印があるものは、彫刻や出来栄えが素晴らしい優品が多いため、作者の自信作であったことが伺えます。
この作品には、表裏に抜けるように掛かった緋襷文様が巡っており、品格が一層高まった仕上がりとなっています。
緋襷文様には、陶工のセンスがはっきりと現れますので、友石の技術がいかに高かったかが分かる逸品でしょう。
無造作に押された印に惹かれる理由とは
窯印があることで、備前焼の楽しみは倍増する
約200年以上前の、江戸時代の備前焼作家の名前や存在が分かるのは、「窯印」があったからに他なりません。
備前では、「窯印」は、室町~安土・桃山時代には、作品を見分けるために使われていますので、長年続いている伝統です。
つまり、窯印を見ることで、備前焼の作品の歴史も遡れるのです。
まずは、好きな陶工や印を見つけてみましょう。
そこから、備前焼の楽しみ方はぐっと広がっていきます。