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  • 執筆者の写真古陶磁鑑定美術館

■茶会記を深読みするNo.4 「茶会記に残る備前焼建水」

備前焼は、安土・桃山時代の茶人に愛用された茶道具(茶器・茶陶)の一つです。

特に、織田信長や豊臣秀吉が活躍した天正年間(1573年~1593年)は、「建水」で備前焼が圧倒的なシェアを誇っていました。


豊臣秀吉をはじめ、明智光秀、千利休、古田織部、今井宗久、津田宗及、山上宗二、荒木村重など・・・、実に多くの大名や茶人達が、茶会で備前焼の建水を使用しています。

そんな当時の茶の湯の様子をうかがえる貴重な資料が「茶会記」です。


茶会記には、茶会が開催された日程や参加者の情報だけでなく、振る舞われた料理や、飾られた花、使用した茶道具の産地、姿形等が詳細まで記されています。


つまり、茶会記を読み解くことで、当時の茶の湯の実態が垣間見えるのです。


そこで今回は、安土・桃山時代~江戸時代の茶会記に記された「建水」に焦点を当てて、流行の推移や姿形の変遷について、深堀りしてみたいと思います。

備前焼の桃山茶陶と言えば、「建水」と言っても間違いない程、圧倒的な人気を誇っていました。その真実を、当時の一時記録から考察してみましょう。


【茶会記に記された備前焼建水のデータ一覧】

【分類別】

この表(上)は、安土・桃山時代~江戸時代の茶会記に登場した建水の一覧データ(一部)です。また下表は、茶会記のデータを、姿形別、開催月時別に分類したものです。


※詳細は、画像クリックで茶会記元データ(スプレッドシート)をご覧いただけます。



まずは、表の見方から解説します。


上表の見方ですが、左項から順番に、茶会が開催された「西暦」「元号」「日付」「時間」「場所」を年代順に表示しています。「出典」は、この茶会記の出典元データのことで、「席主」は茶会の亭主を意味します。「形式」は、この茶会が出典者から見て、自会(席主)なのか、他会(客)なのかを表しています。


例えば、1566年永禄9年9月10日の晩に堺で開かれた茶会では、亭主を千宗易(利休)が務め、津田(天王寺屋)宗及が客として招かれています。そこで使われたのが、「備前物 ハウ之サキ」の建水(みずこぼし)です。そして、その記録が天王寺屋会記(宗及の記録)に残っているという意味になります。なお「記述」の項目は、茶会記に記された建水に関する表記で、姿形や銘などが確認できます。

これらを見ると、建水の流行や形の推移だけでなく、当時の茶人の人間関係や、茶会の時期、時間帯、場所などの時代背景まで窺い知れるので、安土桃山~江戸時代にかけての茶の湯が、実際にどのように行われていたか、肌で感じることができるでしょう。


いくつか特徴的なものを紹介します。

まずは、備前建水が使われた「季節」と「日時」についてです。下表を見ると、備前焼の建水が茶会で使われる季節には、偏りが見られることが分かります。それは、夏よりも冬の方が多用されている点です。この季節の偏りは、備前焼の「寂びれた無釉の焼け肌」が、夏よりも冬にマッチしていたからではないでしょうか。当時の茶人の美意識や好みが伺えます。


次に、建水の形についての特徴です。建水の姿形は、天正年間は「棒の先」「甕の蓋」「合子」「面桶」の表記が見られ、寛永年間以降は「平(古備前)」「筒」「四角・六角」の表記が確認できます。


この表記だけでも、安土桃山時代と江戸時代とでは、備前建水の姿形や呼称が異なっていることが分かります。また時代が下るほど、形が複雑に、そして四角等の作為・意匠性が加わっていきます。

茶陶の姿形は、年代の鑑定や真贋を判定する際の非常に大事なポイントです。これらの特徴は、同時代であれば、備前焼だけでなく、伊賀や信楽、高取、瀬戸など、様々な産地で同じような様式が見られますので、興味のある方は茶会記を確認しておくと良いでしょう。


また、備前建水を使用した茶人の記録からは、まさに戦国時代の情景が思い偲べます。すなわち、千利休や豊臣秀吉、明智光秀が茶を点てた茶室の脇には、確かに備前焼の建水が置かれていたのです。

秀吉の右腕として著名な「黒田官兵衛」は、最初は「勇士の好むべきものでない」として茶の湯を否定していましたが、ある時秀吉に茶室に呼ばれたことで、その考え方が180度変わり、心を入れ替えて茶の湯を始めました。その理由は、「武将が他の場所で密談をしていればすぐに噂になってしまうが、茶室であれば疑われずに密談ができる。」と言われ、納得したからでした。

備前焼の建水を前にして、武将同士が集まって、一体どんな話が繰り広げられていたのでしょうか?古備前建水を手に取って目を閉じてみると、当時の景色が目の前に広がってくるようです。



※茶会記のデータは、下記スプレッドシートにまとめてあります。スプレッドシートURLをクリック(もしくは添付)して、詳細をご覧ください。


※コラム「茶会記を深読みする」シリーズは、原則スプレッドシートの茶会記データを使って解説します。



■■■■■■ 桃山~江戸時代の茶会記分析データ(スプレッドシート) ■■■■■■■


URL:


※画像クリックでスプレッドシートが開きます。


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