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  • 執筆者の写真古陶磁鑑定美術館

■茶会記を深読みするNo.5 「茶会記に残る備前焼水指」

備前焼は、安土・桃山時代の茶人に愛用された茶道具(茶器・茶陶)の一つです。

その中でも備前焼の「水指」は、1549年と最も早い段階で茶会記に出現しており、室町時代から茶人に愛用されていたことが分かります。有名どころでは、豊臣秀吉、古田織部、津田宗及、山上宗二、荒木村重、織田有楽斎、小堀遠州、金森宗和等・・・、多くの大名や茶人達が、茶会で備前焼の水指を使用しました。


そんな当時の茶の湯の様子をうかがえる貴重な資料に「茶会記」があります。


茶会記には、茶会が開催された日程や参加者の情報だけでなく、振る舞われた料理や、飾られた花、使用した茶道具の産地、姿形等が詳細まで記されています。


つまり、茶会記を読み解くことで、当時の茶の湯の実態が垣間見えるのです。


そこで今回は、安土・桃山時代~江戸時代の茶会記に記された「水指」に焦点を当てて、流行の推移や姿形の変遷について、深堀りしてみたいと思います。


備前焼の桃山茶陶の真実を、当時の一時記録から考察してみましょう。



【茶会記に記された備前焼水指のデータ一覧】

【分類別】

この表(上)は、安土・桃山時代~江戸時代の茶会記に登場した水指の一覧データ(一部)です。また下表は、茶会記のデータを、姿形別、開催月時別に分類したものです。


※詳細は、画像クリックで茶会記元データ(スプレッドシート下部タブ:水指)でご覧いただけます。


まずは、表の見方から解説します。


上表の見方ですが、左項から順番に、茶会が開催された「西暦」「元号」「日付」「時間」「場所」を年代順に表示しています。「出典」は、この茶会記の出典元データのことで、「席主」は茶会の亭主を意味します。「形式」は、この茶会が出典者から見て、自会(席主)なのか、他会(客)なのかを表しています。


例えば、本能寺の変の約半年後の1582年天正10年11月1日の朝に堺で開かれた茶会では、亭主を千利休の一番弟子の山上宗二が務め、津田(天王寺屋)宗及が客として招かれています。そこで使われたのが「備前水指」です。そして、その記録が天王寺屋会記(宗及の記録)に残っているという意味になります。なお「記述」の項目は、茶会記に記された水指に関する表記で、姿形や銘などが確認できます。

これらを見ると、水指の流行や形の推移だけでなく、当時の茶人の人間関係や、茶会の時期、時間帯、場所などの時代背景まで窺い知れるので、安土桃山~江戸時代にかけての茶の湯が、実際にどのように行われていたか、肌で感じることができるでしょう。


いくつか特徴的なものを紹介します。


まず使用頻度や回数の傾向ですが、水指は、建水ほど顕著な流行や偏りは見られません。ただし、1584年と85年の2年間と、1639年に極端に使われていることが分かります。天正年間の方は、津田宗及が「芋頭」と「括り袴」という水指を集中的に多用したからで、寛永年間の方は、小堀遠州が集中的に使用したためです。後者の方は、古備前と表記がないものは、おそらく伊部手の水指でしょう。


それ以外は、年に数回~10回以下程度の頻度で、地味にずっと使われ続けているといった感じです。これらの傾向から推測すると、当時の茶道具のブーム(流行)は、ある茶人が集中的に使うことで、それが「誰か好み」として広がって形成されていったと想定できます。

なお、備前水指の代表的な姿形は、桃山時代は、「いもかしら」「くくりはかま(銘)」「尻膨(尻フクラシタル)」「餌畚(えふご)」で、江戸時代は、「弦付」「姥口」「鞠型」「四角」「鳶口」「菱」「丸」「手桶」「釣瓶」「瓢箪」「五角」など、時代を経るに連れて多様化し、造形や作為が強まっていったことが分かります。


また、建水と水指は、その用途上、同じ容器を使うことができます(同時にではなく)ので、余程の特注品でない限りは、器種としては区別なく、茶人の好みで使い分けされたと思われます。そのため、建水として使われていた器が、時代を経て水指として使われだしたものもあるでしょうし、逆もまた然りでしょう。

ちなみに、1587年2月13日朝に津田(天王寺屋)宗及が使った銘「ククリハカマ」の水指には、「友蓋」との表記が見られます。このククリハカマは、茶器用の水指として蓋付きで特注した器なのでしょう。


流石は、信長・秀吉時代の天下三宗匠の一人です。茶の湯がまだ完成していない創作時代に、すでにオーダーメイドの備前焼水指を使いこなす数寄っぷりとは、只々頭が下がるばかりです。

兎にも角にも、現代まで伝わる素晴らしい伝来品を眺められるのは、茶会記に残る彼らの「数寄」の結晶であり、生き様があるからでしょう。



※茶会記のデータは、下記スプレッドシートにまとめてあります。スプレッドシートURLをクリック(もしくは添付)して、詳細をご覧ください。


※コラム「茶会記を深読みする」シリーズは、原則スプレッドシートの茶会記データを使って解説します。



■■■■■■ 桃山~江戸時代の茶会記分析データ(スプレッドシート) ■■■■■■■


URL:


※画像クリックでスプレッドシートが開きます。


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